『レ・ミゼラブル』の楽しみ方<17 モントルイユ=シュル=メール> |
北緯50度27分、東経1度45分というから、パリの北方にあたる。ドーヴァー海峡に面した有名な町、カレーの少し南にある町である。
地名についているシュル・メールは「海に面して」という意味だが、地図で見る限り、海から10キロばかり内陸に入った町である。町を流れるカンシュ川が海からの遡上を容易にするため、長い間、海港として使われた。ユーグ・カペー在位中というから、10世紀の終わりごろ、フランス王室が所有する唯一の海港だったといわれる。
中世後期、カンシュ川が土砂の堆積により船の遡航が困難になり、貿易港としての役割を終えた。たまたま、町が川を見下ろす格好の位置にあるため、その後、古城の跡に要塞が設置され、現在では、堅固な要塞に囲まれた「要塞都市」として、観光客に知られている。
モントルイユ・シュル・メールは、ファンチーヌの生まれ故郷であるだけでなく、回心し、生まれ変わったジャン・ヴァルジャンが、ここに住み着き、ここで事業に成功し、工場を建て、市長に推挙されたところである。
インターネットの情報によれば、最近、映画『レ・ミゼラブル』のヒットで、この町が『レ・ミゼラブル』の町として有名になり、観光客が増え、ホテルの予約が殺到しているそうである。「レ・ミゼラブル」という名のチョコレート屋まであって、その店の写真を、インターネットで見ることができる。
ファンチーヌがまだパリにいた、1815年ごろ、この町に1人の男がやってきた。ジャン・ヴァルジャンである。
12月のある夕方、彼が町に着いたとき、市役所に火事が起き、通りがかった男が火の中に飛び込み、生命の危険を冒して、2人の子どもを救った。それが偶然、憲兵隊長の子どもだったことから、彼は「黄色い旅券」を調べられることなく済んだ。
こうして、ジャン・ヴァルジャンは、マドレーヌ氏という名で、この町に住むことになる。